所持品リスト
午後18時05分 碁会所の扉の前の階段






 もう6時だ。
 ボクはうんざりするほど手一杯な荷物を、碁会所の階段で改めてチェックした。





皆に食べつくされ、
もうぎりぎり二人分しか
残されていないケーキ
メディアで広く紹介されているという超人気の高級ケー
キ(母御用達)。あまりに香り高く、美味なため人に遭う
度に悲しいかなその身を削ることになる。しかし奈瀬と
いう女の子が気を利かせて、きっちりとまるで最初から
そういうカットにされていたかのように切ってくれたことは
不幸中の幸いだ。箱が少々大きすぎることを除けば、こ
れが元は直径24センチのホールケーキだったことに進
藤は気付くまい。キレイに切り分けられた2個のケーキ
には、HappyBirthdayという文字の書かれたチョコレー
ト板が、そっくりそのまま残っていた。皆さすがにそこだ
けは遠慮してくれたのだ。(当然か)
ケーキの代償:その1
手提げ袋いっぱいの
カップラーメン
(あかりさんから)
新発売だというカップラーメンが何種類も入っている。し
かしこれを全部消費すると、おそらく身体に何らかの負
担がかかってしまうと思うのだが・・・・。あまり一気に食
べ過ぎないよう、ボクが進藤の健康を管理する必要が
あるだろう。
ケーキの代償:その2
古びた詰碁集
(筒井さんという人から)
ちらっとめくってみたが、かなり簡単だった。おそらく中
級者用のものか?彼が案じていた通り、進藤にはもう
必要なさそうではあるが、思い出という点では、進藤に
とってそれ以上の価値があるものに違いない。
ケーキの代償:その3
開くと王将という文字が
鮮やかな扇子
(加賀という赤い髪の男から)
・・・・・?
彼にどこで会ったのかいまだに思い出せない。
これを進藤に渡せば、彼がなぜボクを知っていたのか何
か教えてくれるだろうか。
ケーキの代償:その4
中国の碁石
(伊角という青年から)
上から見ると日本の物と変わりなく見えるが、横から見
ると微妙に形が違う。伊角という青年の思い出が込めら
れたものらしい。見れば見るほど面白い形だ。ボクも今
度、お父さんにお土産として持って帰ってきてもらおう。
ケーキの代償:その5
スナック菓子
(奈瀬という女の子から)
チョコレート、クッキー、パイといった見るからに甘いもの
ばかりだ。中には食べかけらしく、袋が開いているのも
ある。しかし甘いもの好きの進藤は喜ぶか。
ケーキの代償:その6
缶コーヒー
(フクという少年から)
ブラック。進藤もブラックは苦手なので、悪いがこれはボ
クが飲むことになるだろう。しかし、進藤へのプレゼント
というよりは、単にもてあましていたいらない物をくれた
感がどうしてもぬぐえないのだが・・・・。
ケーキの代償:その7
黄色と白の花が中心の
花束
(和谷くんから)
時価1万円といったところか?進藤にこの黄色い花は似
合いそうだ。どういう真意を持って彼がボクに花束を持た
せたのかは定かでないが、しかし特別な日においてム
ード満点の、非常に有用なアイテムなことは間違いな
い。・・・・・彼は実はいい人なのかもしれない。










 進藤を探しているうちに、いつのまにかこんなにも荷物が増えてしまった。
 唯一ケーキの箱だけは軽くなっていったが、ケーキが欠ける度にどんどん物が増えていく。
 まるで何かのお伽話のようだ。



 それほど重い物はないが、しかしかさばってしまうことこの上ない。(特に代償1と5と7)
 この状態のままで進藤を探しに行くのもどうかと思う。



 ボクはこれ以上進藤を探しに行くのは諦め、とりあえず和谷くんたちが言ったように、進藤の部屋を再び訪ねること
にした。







携帯はやはりまだつながらないが、もしかするともう、帰ってきているかもしれない。







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