「うわっ、なんだオメー、塔矢?!」
「えっ、塔矢アキラ?!」
「びっくりするじゃねーか。まさか天下の塔矢アキラとこんな所で偶然出 会うとはな。」
「こんにちは、塔矢くん。・・・・ボクのこと覚えてるかな。囲碁大会で副将 やってた、筒井っていうんだけど・・・。」
「筒井、こんなヤツに挨拶なんてする必要ねーよ!」
「加賀!!そんな言い方はないだろ。将棋に転向しちゃった加賀にはわ からないかもしれないけど、塔矢くんと進藤くんは囲碁の道を志す者にとっ ては憧れの人なんだからね!」
「おーおー、いつのまにか進藤なんかと同等扱いされてるぜ、塔矢。いい のかよ?」
「あっ、ごめん塔矢くん。気を悪くしなければいいんだけど・・・・でもほら、 最近進藤くんもすごくがんばってるから・・・・・。え?いいライバル?・・・う ん、そうだよね!二人はライバルだよね!うわー、なんかいいなあ。そうい う関係っていいよね!」
「けっ、なーにがライバルだよ。・・・・ま、進藤のヤツも確かに以前よりは マシになったみたいだけどな。」
「加賀、大きな口叩いてるけど、今対局したら絶対負けるよ。あっという間 に。」
「なっ・・・・・!」
「なんたってもうプロだからね、進藤くんは。もう葉瀬中囲碁部にいた頃の 進藤くんじゃないんだよ。あー、あの頃が懐かしいなあ。まさかボクの後輩 からプロが出るなんて・・・・。今や進藤くんはボクの誇りだよ。」
「何言ってんだか。アイツなんて、オレがいなかったら今でもヘボヘボな 碁しか打てねーぜ。このオレが院生になる後押しをしてやらなきゃどうなっ てたか。」
「・・・・うん、確かにあの時の加賀の役割は大きかったよね。」
「役割とか言うな!」
「でも、もしあの時院生になってなくても、きっと進藤くんはどのみちプロに なってたと思うよ。だって塔矢くんがプロの世界にいるんだから。遅かれ早 かれ、絶対塔矢くんを追いかけてたと思うな。」
「・・・・・・。」
「本当に、いいよね。ライバルって。・・・・ねえ塔矢くん、中学を卒業して からほとんど進藤くんに会ってないんだけど、元気にしてるのかな?」
「何言ってんだ。週刊碁とかで逐一進藤の様子をチェックしてるくせに。」
「うるさいな!先輩なんだから、後輩のこと心配するの当たり前だろ!そ れに対戦成績はわかっても、会ってみなきゃ実際に元気かどうかはわから ないじゃないか!・・・・・ああそう、元気なんだ。よかったー。」
「ふーん、元気でやってるのか。・・・・ま、オレにはどーでもいいことだけ どな。」
「加賀こそ、将棋専門とか言ってたまに週刊碁を買ってるくせに。あれ、 進藤くんをチェックしてるんだろ?全く素直じゃないんだから。」
「うるせーぞ筒井!!ああもう昼メシ行くぞ昼メシ!オレは腹が減ってん だ!!・・・・おい塔矢。なんだその両手の大荷物は。」
「カップラーメンと・・・・ケーキ?あ、これってあの有名な所のだよね。ボク は食べたことないけど、ものすごくおいしいらしいね。」
「何?そんなにうまいのか??」
「うん、こないだテレビでも紹介されてたらしいよ。」
「ふーん・・・・。ちょっと見せてみろよ、塔矢。」
「お、おい加賀!!人の物を・・・」
「うわっ、なんだこれ!めちゃくちゃうまそーじゃねーか!!・・・・なんだ? 進藤のバースデイケーキ?」
「へー、進藤くん誕生日なんだ。」
「にしてもうまそうだな。もう食べた痕跡が残ってんじゃねーか。こうなった ら一切れ減るも二切れ減るも一緒だろ?おい、筒井。オマエ、アーミーナイ フかなんかもってたよな。」
「か、加賀!まさか食べる気?!さすがにバースデイケーキもらっちゃ悪 いよ!」
「何も全部ってわけじゃねーんだし、いいだろ。な?塔矢!!」
「加賀・・・・。」
「・・・・ほら、塔矢もいいって言ってんじゃねーか。あそこ植え込みのとこ にでも腰掛けて、早速いただこうぜ!」
* * * * *
「あーうまかった。こりゃ確かにテレビでも紹介されるわ。進藤にはもった いねーな。」
「ごめんね塔矢くん。ボクまでいただいちゃって。でも本当においしかった よ。・・・・進藤くんと塔矢くんって、そんな仲いいってイメージなかったんだ けど、でも本当は仲良しなんだね。ライバルなのに仲良しって、それってす ごいことだね。きっと一生続くつきあいになるね。」
「けっ、二人でいつまでも神の一手でも何でも追っていきやがれ。オレは もう土俵の外だし、関係ねーことだがな。」
「塔矢くん、加賀って口悪いからわかりにくいけど、あれでも二人のこと応 援してるんだよ。誤解しないであげてね。」
「筒井!!」
「うわっ、なんだよ、殴ることないだろ!・・・・まったくもう。・・・・あ、そう
だ。こんなもの、もう進藤くんには必要ないかもしれないけど・・・・これ。ケ ーキ食べちゃったお詫びと、誕生日プレゼントを兼ねて。」
「なんだ?詰碁集?」
「うん、ボクがずっと愛読してるやつなんだ。どんなに強くなっても、やっぱ り基礎は大事だと思うし・・・。それに、これを見て進藤くんがボクたちのこと 思い出してくれたらなって。」
「・・・・そうだな。初めてオレたちが進藤に会ったときも、詰碁集が絡んで たしな。思い出の品くらいにはなるかもな。オマエがその詰碁集をやるって んなら、オレはこの扇子をやるよ。アイツも最近オレの真似してか、扇子愛 用してるみたいだしな!他にも何本か同じの持ってるし。まっ、将棋用のだ からおおっぴらには使用できないかもしれねーけどな!!ハハハ」
「加賀・・・・・・・・・。」
「ま、とにかくアイツにヨロシク言っといてくれや。オレたちは元気でやって るってな。」
「ボクからもヨロシク。いつでも応援してるからって!」
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