幼馴染
  午前11時50分 藤崎あかり宅






 「あら、塔矢くん久しぶり!どうしたの?・・・・・え?ヒカル?・・・・うーん、
昔は私もヒカルと結構仲良かったけど、でも最近私もあんまりヒカルと話し
てないから・・・。ほら、ヒカルプロになってからすっごく忙しいでしょ? あ、
それは塔矢くんも同じだから知ってるよね。今日は見てないなあ・・・・。今
さっき友達が遊びに来たから、その子にヒカルを見てないか訊いてみる
ね。」

 「あかりー、どうしたの?」

 「あ、久美子。ちょうどよかった。あのね、塔矢くんがヒカルを見なかった
かって。」

 「えっ、塔矢くんって・・・・もしかしてあの・・・・。」

 「そっか久美子は会ったことなかったよね。塔矢くん、こちら葉瀬中の元
囲碁部員で私の親友!津田久美子って言うの。久美子、こちらがヒカル
の・・・・ええと、友達の塔矢アキラくん。すっごく囲碁強いんだよー。」

 「知ってる!もう、あかりってば!囲碁やってる人間で塔矢アキラのこと
知らない人なんていないよー!!・・・・・あ、本人の前で私ったらつい・・・。
ごめんなさい!・・・・・進藤くん?さあ・・・・私がここに来る途中には会わな
かったけど・・・・。」

 「ヒカルっていつも一人でふらふらどっかに行っちゃうのよね!」

 「うん、確かにそーいうとこあるよね。」

 「いつのまにか家出て一人暮らしなんか始めてるし!実家から近いくせ
にねー。マイペースなのは昔からだけど、最近特にそんな感じよね。単独
行動が多いって言うか・・・・。碁を始める前は皆でワイワイ騒ぐタイプだった
んだけど。なんか、碁を始めて皆より一足先に大人になっちゃったって感じ
かなー。」

 「そうね。ちょっと人と違った雰囲気持ってたし。本人は気付いてなかった
けど中学の時はもててたよねー。密かに憧れてた子、私何人も知ってるも
ん。」

 「・・・・・・。」
 
 「あれ、どうしたの二人とも黙り込んじゃって。」

 「ううん、なんでもない!・・・・・塔矢くん、ごめんね。何の役にも立たなく
て。・・・・・あれ?なんかいい匂いがする・・・・。」
 
 「ホントだ。甘い匂い。」
 
 「わかった。塔矢くんの持ってる箱からだ。ねえねえ、これってもしかして
あの有名ケーキ店の包装紙じゃない?・・・・・え?やっぱりケーキ?今日
はヒカルの誕生日だもんね!!お祝いするの?塔矢くんてやさしいね!!
でもいいなあー、ヒカルが羨ましい!ここのケーキものすごく美味しいんだ
よね!!」

 「うんうん、よく雑誌とかにも載ってるよね!!」

 「いーなあ・・・・。」

 「おいしそう・・・・。」



 「おいしそうよね・・・。」

 「ホントおいしそう・・・。」



 「・・・・・・・。」

 「・・・・・・・。」








 「・・・・・えっ、私たちももらっていいの?!ホントに?!」
 
 「ええー、でもいいのかしら・・・・。」

 「じゃあ、ちょっとだけ!塔矢くんありがとう!今ナイフ持ってくるか
ら!!」






* * * * *






 「うーん、おいっしー!やっぱりここのケーキは最高ね!!ちょっと欠けち
ゃったけど、でも絶対ヒカル喜ぶよー!!」

 「うん、ホントにおいしい!」

 「あ、そーだ塔矢くん。ヒカルなんだけど、よく一人で駅前の碁会所にいる
から、そこに行ってみたら?」

 「ああ、あの足裏マッサージの下の階にあるやつよね。確かに私もそこで
進藤くん見かけたことあるよー。」

 「いるといいね、ヒカル。あ、それから食べちゃったケーキの代わりと言っ
ちゃなんだけど、ヒカルにこれ渡しておいてくれる?新発売のカップラーメ
ン、こないだ食べておいしかったから、ヒカルが喜ぶかもって買い置きして
たんだ。食べ過ぎるとちょっと身体に悪いかもしれないけど、でも一人暮ら
しで料理って大変でしょ?ヒカルのことだからほっといたらもしかして食事
抜いたりしてるんじゃないかと思って。だからいつかあげようと思ってたの。
誕生日だし、ちょうどいいよね。なんかこんなもので誕生日プレゼントって言
うのも照れくさいけど。」

 「ええー、あかり、そんなにたくさん?!」







 「うん。だってヒカル、ラーメン大好きだもの。」















 こうしてボクは欠けてしまったケーキの代償に、進藤が駅前の碁会所にいるかもしれないという情報と、手提げ袋い
っぱいのカップラーメンを手に入れた。


 それから、応援してるからがんばってね、という二人から進藤へのメッセージも。






 進藤には家族以外にも、ちゃんとその生活を気にかけてくれる人が存在するのだ。






 あかりさんの家を出てすぐに、もう一度携帯を鳴らしてみたが、応答はなく、それでも鳴らし続けていると、やがて留
守番電話に切り替わった。


『・・・・・・・ピーッという発信音の後に、メッセージをお話しください・・・・・・・・・』







 少し迷ったが、
電話をくれ、とメッセージを残した。






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