進藤ヒカルの部屋






 「・・・・・すまなかった。」

 ボクが大きくうなだれると、進藤は慌ててボクを慰め始めた。
 
 「いいよいいよ。そんな落ち込んだ顔すんなって。普段飲まないオマエがあんなに祝ってくれて、オレ本当に嬉しか
ったんだからさ。」


 「進藤・・・・・・。」




 「オマエ、もしかして目が覚めたらオレがいなかったから、心配してくれてたのか?」






 「・・・・・・。」






 「・・・・・そりゃ・・・・・悪かったな。」



 「いや、キミが謝ることじゃない!悪いのは、ボクだ。キミの、折角の誕生日なのに・・・・。」

 「だから気にすんなって。誕生日なんて来年もあるんだからさ!」

 「それはそうだが・・・・。」

 「ほらそんな顔すんなよ!・・・・あーあ、何か腹減ったなあ。もう6時だもんなあ。」
 進藤の言葉で、ボクはボク自身も朝から何も口にしていないことに気がついた。
 言われて見れば、お腹が空いているような気もする。

 ボクは黙って部屋の隅に置いていた大きな袋を差し出した。

 「何だよ、これ?・・・・・おっ、ラーメンじゃん!しかもこんなにたくさん!!・・・・全部新製品だよな?やりー、オレこ
れ食べたかったんだー。気が利くじゃん!!」




 顔中の筋肉を緩めて、嬉しそうに袋の中を探る進藤。




 無邪気に笑うその笑顔が眩しかった。

 カップラーメンみたいな安い物で、進藤がそんなに喜ぶなんて。
 今まで知らなかった一面を少し垣間見た気がした。




 少しくやしい気もするが、やはりあかりさんは進藤のことをよくわかっているのだ。




 それは仕方のないことなんだろう。
 あかりさんは、ボクよりももうずっと長い間、進藤を見つめ続けてきたのだから。








 そしてそれはあかりさんだけじゃない。





 今日出会った人たちは皆、ボクの知らない進藤を見つめてきたのだ。
 ボクの知らないところで苦悩し、成長し、そして明るく笑う進藤を見つめてきたのだ。






 ああ、こんなことで嫉妬してしまうボクは心が狭いと笑われるだろうか。




 「ケーキも、お菓子もあるよ。」
 「え?あ、ホントだ。・・・・詰碁集とか扇子とか・・・あと缶コーヒーも入ってる。しかも碁石も一個だけ、なんで入って
るんだ?塔矢、さっきのカップめんといい、一体どうしたんだよ。なんなんだよ、これ?」


 不思議そうな顔で尋ねる進藤に、一から説明しようかとも思ったが、話が長くなってしまいそうだったので
 ・・・・・・・・・・・・やめた。












 「・・・・・キミが愛されてる証拠だよ。」













 一言だけ言うと、進藤は、より一層不思議そうな顔をして、ふーん、と、わかったようなわからないような返事をし
た。




 「じゃ、オレちょっと先にシャワー浴びてくるわ。もうこんな時間だし、今日は外に出ることもねーよな。二人でゆっくり
過ごそうぜ。」


 「・・・・・ああ。でも、もう残り少なくなってしまったな。キミの誕生日。もっともっと、二人で過ごしたかったのに。」

 ボクのせいで、進藤に時間を無駄遣いさせてしまったような気がして、やはり少し気分が滅入る。





 しかし進藤は明るい笑顔で言った。

















 「いいんだよ。夢の中でずっとオマエに会ってたから。」











 オマエだけじゃなくて、和谷とか、伊角さんとか、
 あかりとか、筒井さんとか、他にもいっぱい出てきてたなあ。
たくさん人がいたよ。

 そんで、皆オレの誕生日を祝ってくれるんだ。

 懐かしかったなあ。
 嬉しかったなあ。

















 独り言のようにそうつぶやきながら、進藤はバスルームのドアに姿を消していく。
 















 後に残された僕の心には、
 なんだか少し・・・・・・不思議な感覚が残った。






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