※展開はアキヒカですので苦手な方はご注意下さい。 ※設定が『恋に落ちた日』の続きとなっておりますので 未読の方はこちらを先にお読み下さい。 (04.12.22) 『特別な日』
きっかけは些細なことだったと思う。 碁石を片付ける時に指が触れたとか、何かの拍子に髪に触れたとか、そういう小さな出来事が重なるうちに、少しずつその想いは溢れてきた。 なぜだかわからない。 どういう衝動なのかもわからない。 ただ、この想いを満たしてしまったら、きっと、何もかも元に戻すことが出来なくなるということだけは、漠然とわかってはいたんだ。 ・ ・ ・ 「お疲れ様でした」 「お疲れ様。今度あらためてまた連絡するからね」 「はい、では失礼します」 取材を終え、古瀬村さんと別れたボクはエレベーターで棋院の一階に向かう。 予定よりずいぶんと取材が長引いてしまった。今日は泊りがけでボクの家で碁を打つ約束を進藤としていた。時計を見ると約束の時間をとうに過ぎている。いつもよりエレベーターが遅く感じて、回数表示を見上げたその時、ランプが一階を示して扉が開いた。 「・・・ってそれがダメだっての!!」 「うがっ!」 ロビーの騒々しさの元凶となっているのは聴きなれた声。 ![]() 「ったく伊角さんもコイツに言ってやってよ〜」 「うぐぐ苦しいってば!放せよ和谷ぁ!」 「まあ、進藤ももう少し自立するのも悪くないかもな。 ほら、和谷もその辺にしてやれ」 ロビーの隅に、進藤と和谷さん、伊角さんがいるのが見えた。 何やらもめているらしく、進藤の背後から和谷さんが腕で彼の首を絞めている。進藤は、苦しそうな顔をしながらもどこか楽しそうだった。そんな二人を伊角さんが穏やかに仲裁しているといった様子だ。 「そーそー!和谷だってそういうとこまだまだ子供だぜ」 まだ首に腕を巻かれた状態なのに、そんな減らず口を叩いた進藤は、 「オマエに言われたくねェよ!」 と案の定さらに首を絞められていた。 進藤の首に触れる、和谷さんの腕。 進藤の首、細いな。 折れやしないだろうか。 まさかね。 でも、本当に細い。 もしもボクが今の和谷さんと入れ替わっても、怖くてあんな風に締め付けたり出来ない。 彼の首に、腕をまわしたら、ボクなら、 ![]() 「うがぁっ・・・・・・っあ、塔矢!」 不意に彼と目が合って、なぜかドキッとする。 ・・・今、ボクは何か変なことを考えようとしなかったか? ボクはそんな思考を振り払うように軽く頭を振ってから、彼らの元に歩き出した。 「・・・すまない、待たせてしまったな」 「長かったな〜取材。ま、でもちょうど和谷と伊角さんが来てたからいいけどさ。 もう帰れるのか?」 「ああ」 「じゃ、行くか!じゃあな、和谷、今度行った時は一人暮らしの自立の成果として 夕飯でもごちそうしてくれよな」 「あー楽しみにしてな!特製ラーメンでもごちそうするぜ」 「料理かよそれ!オレ、ラーメンにはうるさいぜ〜。じゃ、またな!」 進藤は笑いながらやっと緩くなった腕の拘束から抜け出して、ボクを促すと棋院の外へと歩き出した。 |
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