今日は北風が冷たい。
 ボクはマフラーに顔を埋めて家路を歩く。
 隣りで進藤は暖かそうなダウンを着て、楽しそうに院生仲間のエピソードを話していた。
 近頃は以前よりもこんな風に碁以外のたわいもない話を彼とするようになった。
 今まで彼のプライベートについてはほとんど関心がなかったのに、いつの頃からだろう、
彼をもっと知りたいと思うようになってしまったのは。

『愛してる』とキミに告げてからも、ボクらは表面上何も変わらずに過ごしていた。

 キミにそう告げたことで、何か変化を求めていたわけではなかった。
 だって、この想いは今までだってボクの胸にあったものだったから、それをキミに告げたからといってこの想いはこれからも変わらない、何一つ変わらない。そう、信じていたのに。

「というわけで、和谷は一人暮らししろって言うんだけど、
 親には18になるまでは絶対ダメって言われて通帳だって取りあげられて
 いまだに小遣い制だからなー」
「一人暮らししたいのか?」
「んー今は別にぃ。だってメシとか洗濯とか掃除とかめんどくせェじゃん」
 先程和谷さんともめていたのは「自立について」だったようだ。
 ボクも一人暮らしはしていないが、両親の不在が多いため、似たような状態にはなっている。だが、進藤はイベントで一緒になった時に知ったがネクタイすら一人で結べない。まだまだ親元で自立への教育が必要だろう。(今の様子を見るに教育を受ける気があるかは疑問だが)和谷さんが自立について少しは考えろと言いたくなる気持ちもわかる。

「和谷ってなんだかんだいって昔から面倒見がいいんだよ」
「キミたちは仲がいいな」
「まあ、院生の時からの付き合いだからな」


「・・・ああいう仲間がいるっていうのも良いものなのかもしれないな」
「え?」


「あんな風にふざけあえる友達ってボクにはいないから」
「何?欲しいわけ?」
「うーん・・・どうかな・・・」
 欲しいかと言われると、そうでもないような気がする。
 でも、和谷さんと進藤を見て、羨ましいと感じたもの事実だ。
「なんだよ、はっきりしろってば!」
「っうわっ」
 突然、進藤に首に腕をまわされ、ギュッと締められる。



「へへっ!ほらほら塔矢くん、ギブは〜?」
 そう言って笑う。



 キミは知らないから。



 キミの温もり。
 ボクの髪にかかるキミの吐息。
 ボクを包むその腕の力。


 今のこのすべてに心が震えて、このままでいたいと願うボクの想いをキミは知らないから。




 だから、そんな風に無邪気に笑えるんだ。



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