回想
9月19日  午後20時  Restaurant


















 進藤は9月20日が自分の誕生日であることを、直前まで黙っていた。
 
 



















 「なんでもっと早く言わないんだ!明日じゃないか!!」


 思わず声が荒くなるボクを、進藤は一瞥して、それから少し恥ずかしそうに目を伏せた。
 「だって別にそんな大したことじゃないし。」
 「大したことだろう!キミがこの世に生まれた日だ!!」
 「オマエ・・・・声大きいよ。他のお客さんに迷惑だろ。・・・・それはそうだけどさ、でももう別に小さな子供ってわけじ
ゃないし、いいんだ大袈裟にしなくても。」


 そう言ってへへ、と笑う進藤が、どこかいじらしく感じられてしまう。
 ボクが最近特に忙しくしていてなかなか会えなかったから、だから言い出せなかったのだろうか。
 思えばここ一週間、電話ですらまともに話していなかった。
 今こうして一緒にレストランで夕食を摂っているのも、お互いが予定をやりくりしてやっと実現できたくらいだった。

 そう、忙しいのはボクだけじゃない。
 最近囲碁界で富に人気の出てきた進藤も、囲碁イベントなどでひっぱりだこだ。



 しかし、だからと言って会う回数が減ったことを甘んじて受け止めているべきではなかった。
 本気で会おうと思えばきっともっと会えたはずだ。
 少なくとも、進藤が自分の誕生日をもっと早くに言い出すくらいには。






 自分で自分に無性に腹が立つ。






 「でも・・・初めての、誕生日なのに。」

 「ああ・・・うん。」


 進藤が曖昧な返事をする。
 でも、その言葉の真意は歪むことなく進藤に伝わったに違いない。

















 そう、初めてなんだ。
 キミとボクの想いが通じあってから、初めて迎える誕生日。






 年に一度しかない特別な日は、やっぱり二人で祝いたいじゃないか!
















 「パーティーをしよう!」
 「え?」
 「今から!」
 「え、今夜?誕生日は明日だぜ?!」
 「わかってる。だから、誕生日になる瞬間を二人で一緒に過ごそう。」
 「・・・・それって、夜通しってこと?」
 「・・・・そうなるかな。」
 本気かよ、と進藤が驚いた顔をした。


 本気だ、と答えると、進藤がオマエ忙しいくせにいいのかよ、と言った。




 満面の笑みを浮かべて。
















 それからその足で、ボクらはシャンパンやワインやカクテルやビールなんかをとにかく色々買い込んで、進藤が一人
暮らしする部屋へと向かった。
 途中、ケーキを買おうと何軒かに足を運んだが、どこもとっくにしまっていた。
 コンビニも数件回ったが、誕生日にふさわしいようなケーキはどこも置いていなかった。

 誕生日なのにプレゼントどころかケーキも用意できない。
 とても残念だった。
 明日、ケーキを買いに行こう。
 そして改めてお祝いしよう。
 そんなことを考えながら、ボクたちはまずシャンペンを空けて、少し早い誕生日を祝った。









 ハイペースで飲む進藤につられ、ボクは次々とボトルを開けた。

 そこまではよかった。


 しかしそれから先は・・・・あまり覚えていない。
 12時にちゃんとおめでとうという言葉を言ったかさえ、なさけないことに記憶はあやふやだった。









 ・・・・・・これではだめだ。
 重度の自己嫌悪に陥る。












 特別な日なのだから、もっともっと、ちゃんと祝わってやるべきだった。

 このままで、進藤の誕生日を終わらせてたまるものか。








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