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(05.3.6)
『ちょっとしたこと、ちょこっと勇気を』
テレビで耳にしたCMソングが頭をよぎる。
ちょこっとどころじゃねェ。うわぁ・・・差し出した右手に乗ってるチロルチョコがやけに重く感じる〜っ。
「・・・チョコレート?
進藤が・・・ボクに?」
思いっきりあっけに取られた顔されて、オレは思いっきり後悔した。
やっぱりおかしいよな、男が男にチョコあげたらおかしいよな・・・。
そんなこと、想像もしないよな・・・。
ああっなんでこんなもん買っちゃったんだろっ
「ちょ、チョコっていってもチロルチョコだぞこれ。
コ、コンビニにチョコがいっぱいあってさ、
これ見つけて懐かしいな〜って買っただけ!
バ、バレンタインとかそういう深い意味ないぞっ
だってほら、チロルだし」
とオレは無理矢理な言い訳を始めてしまった。
・・・あああ、塔矢がどんどん嬉しそうな顔になってる〜〜〜っ
うう、なんかもう、この状況に、た、耐えらんねえ・・・っ
「進藤・・・ありがとう、嬉しいよ」
そう言って優しーく微笑んだ塔矢がチョコに手を伸ばしてきた。
で・・・・・・オレは、反射的に手を引っ込めてしまった。
空を切る塔矢に手。
きっと塔矢はチョコを見せられた時以上にあっけにとられた顔してるんだろうけど、そんなの確認してる場合じゃない。
オレはチョコの包装を乱暴に取る。
で、そのまま自分の口へ――――――――――――――
「ちょっと待って!」
口に入れる直前、がしっと塔矢に手首を掴まれた。
「ボクに買ったチョコだろう!?なんでキミが食べるんだ!」
「や、やっぱ自分で食べたくなった!」
「ふざけるな!それはボクのだ!」
「あ、あげるなんて一言も言ってねェ!み、見せただけ」
「ますますふざけるなっ!!そんなの納得出来るわけないだろう!」
口元へチョコを運ぼうとするオレの腕を力ずくで押さえようとする塔矢。
右手でオレの腕を掴み、左手で直接チョコを奪いにきやがった。・・・やっぱコイツって実はかなり強引なとこあるよな・・・。
オレは自分も左手で塔矢の左攻撃を阻止する。
う〜、腕がクロスになる〜、体勢がキツイ〜。
・・・ってオレ、何やってるんだろ、ホント。
塔矢にあげるために買ったチョコじゃないか。
自分で食べてどーすんだよ・・・。
でもさ、だってさ、なんかすっごい恥ずかしくなったんだ
バレンタインチョコは「好き」って気持ちを伝えるもの。
オレのチョコを見て、嬉しそうだった塔矢。
このチョコを塔矢が食べちゃったら、オレの気持ちも・・・食べられちゃうような気がする。
ずっと・・・応えられなかった、伝えられなかった塔矢への気持ちが、届いてしまう。
・・・って、バカか、オレ。
伝えたいから買ったんじゃないか。
なんで今さら躊躇してるんだ。
あらためて、オレを好きだと言える塔矢はすごいと思った。
塔矢にチョコをあげたあの女の子もそうだ。
なんて勇気なんだろう。
オレは負けてる、塔矢にも。あの女の子にも。
こんな小さなチョコ一つあげる勇気さえ、ないのかよオレは。
・・・情けねェ。こんなんじゃオレはきっとずっと塔矢に何もかも勝てない。
オレは、塔矢に手首を強く引っ張られているチョコを持った右手に顔を近付けて、それをパクッと口に咥えた。
「あ!」
と塔矢が声をあげる。
・・・塔矢が力ずくで取ろうとするからつい抵抗しちゃったけど、抑えられてるのが手だけなら食べに行くのは簡単なんだよな。うーん塔矢、変なところで詰があまい。
チョコを咥えたまま塔矢の顔を見た.
・・・うっわ、怒ってる・・・。
「・・・キミは・・・!ボクをからかって楽しいか!!?」
危ない危ない、チョコを咥えてなかったら、うっかり「楽しい」って答えてさらに怒らせるところだった。
まったくなあ・・・こんなチョコ一つで、こんなに必死になっちゃってさ。
コイツ、なんでオレなんかがいいんだろう。
なんでこんなに・・・オレを想ってくれるんだろう。
でもオレ・・・嬉しいんだよな、それが。
怒ってる塔矢を可愛いなんて思ったのは初めてだなあ〜なんて考えながら、オレは、目を閉じた。
オレの右手首を掴む塔矢の指に、一瞬力がこもる。
それから。
掴み合いをしていた左手には、ゆっくりと指が絡められた。
ひどく時間が進むのが遅い気がした。
目を閉じたまま、待つことしか出来ない。
それで精一杯、それが限界。
ドキドキして、絡まる指が汗ばみそうだ。
軽く引き寄せられたはずみに俯きそうだった顔を少しあげたら、口に咥えていたチョコから振動が伝わってきた。
口からチョコが離れる瞬間、唇に微かに柔らかいものが触れていった。
・・・なんでだろう、今までで一番、ドキドキする。
ゆっくりと目を開けると、塔矢は口元に手をやって、オレから奪ったチロルチョコを食べていた。
目が合う。
「美味しいな」と一言。
「まあ、チロルも久々に食べると美味いって感じるよな」とオレは何事もなかったように言った。
でも、「今まで食べたチョコレートの中で一番美味しい」なんてそんな恥ずかしい台詞を真顔で言われたら、装っていた平静も吹っ飛んだ。
「んなわけあるかよバカかオマエッ」と、我ながら照れ隠しなのがバレバレだな・・・と思いながらも叫ばずにはいられなかったオレに、
「本当だ」
と言って塔矢は、グイッとオレの肩を引き寄せた。
さっきはかすめるだけだったものが、今度はしっかりと重ねられる。
いつもは触れるだけですぐに離れていくのに、いっそう強く押し当てられて、オレは無意識のうちに塔矢のコートを掴んでいた。
息苦しくて、微かに開いた唇の間から、柔らかいものが入り込んできた瞬間、思わず退きそうになったオレの体は塔矢の腕に抱き寄せられて逃げることが出来なくなった。
オレを抱く塔矢の腕から、微かな震えが伝わってくる。
・・・バカヤロ、緊張がうつるだろっ
・・・マラソン大会でもこんなに心臓バクバクしないぞチクショウッ。
でも・・・大丈夫だ。
・・・落ち着け、大丈夫。
・・・イヤじゃ、ない。
「・・・美味しいチョコレートだっただろう?」
唇を放した塔矢はそう言って微笑んだ。
普段、碁会所とかでは相変わらずオレにはすました顔や怒った顔しか見せないくせに、二人っきりの時だけこういう顔するからズルイ、コイツ。
「〜〜〜甘すぎ!!」
オレはドンッと塔矢の胸を押して突き放す。
あーもーチクショウ恥ずかしい〜ッ!
「そうか?でも嬉しかった。ありがとう。
生まれて初めて本命からチョコレートもらった」
靴を脱いでさっさと家にあがったオレの背中に向かって塔矢は言った。
「・・・だ、だから、別にバレンタインだからって深い意味ねェよ。
ってゆーか男のオレがバレンタインチョコをオマエにあげる義務ねェし!
でも、ホラ、一応バレンタインあげとけば、世間ではホワイトデーは
3倍返しって言うじゃねェか、だからバレンタインにあげた方が
得だなって思っただけで」
オレは振り向いて塔矢の鼻先に指を突きつける。
「忘れんなよ、ホワイトデーは3倍返しだかんな!!」
「いいよ、3倍でも30倍でも」
「よし!その言葉忘れんな!」
「進藤こそ、チロルチョコの単価は20円だって忘れてないか?」
あれ?
「・・・20円の30倍っていくらだ?」
「それくらい自分で計算しろ」
あきれたように笑う塔矢。あーあ、適当に思いついた言い訳だったってバレバレだな、こりゃ。
「さ、対局しよう。今日ボクに勝てたら、ホワイトデーのお返し代に上乗せしてやる」
「おう!受けて立ってやるーじゃん!『300倍返し』にしてやるぜ!」
「ぜってェ勝ーつっ!」とオレはわざとらしくドカドカと歩いていつも碁を打つ部屋へ向かう。
口の中はまだほんのり甘くて、しばらく塔矢の顔をまともに見れそうにないけど、一局打ち終わる頃にはいいかげんこの心臓も治まるよな。
そんでもって対局にも勝って、心晴れ晴れと塔矢の顔見てやるぜ、ふんっだ。
・・・とか思って挑んだのにまんまと負けちまった、ううう。
はぁ、まだまだだな、オレ。
結局・・・ちゃんと好きって言ったわけでもないし。
でもまあ、塔矢、嬉しそうだったもんな、オレの気持ち・・・届いたよな?
塔矢にチョコを私に来たあの女の子と同等ぐらいの勇気は出したと思うぞ、うん。
来年は・・・塔矢に負けないくらいの勇気だせるように、頑張ろうかな。
そんなこんなで終わった、ちょこっと勇気のバレンタインデー。
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いや、私、ヲトメチック愛好会会員なんで。
・・・やっと終わった・・・。
長かった・・・。(アキラ口調で)
ところでまったく話はかわるが「ヲトメチック愛好会(絶賛会員募集中)」は
部に昇格するようなことがあったら「ヲトメチック部」になるのだろうか、イヤだな。
「ヲトメチック愛好部」かな、困ったな(←どーでもいい)
というわけでこのアキヒカ、もうちょっとだけ
続くんじゃ(亀仙人尺度)
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