今さらにもほどがありますが・・・
アキラ君誕生日おめでとう〜。

山なし越智オチなし意味なし小話。

※表にありますが、アキヒカ要素有りなので、
嫌いな方はご注意下さい<(_ _)>


(2009.12.27)

「はじめてバースデー」


「はい、アキラ君、お誕生日おめでとう!」
「いつもありがとう、市河さん」
 晴美が手渡した箱を笑顔で受け取ったアキラを、
「やや、若先生、今日誕生日だったか!それはおめでとう!」
「おめでとうございます!」
 北島をはじめ、周りの客たちも次々と祝福した。
「アキラ君ももう23歳か〜私も年取るわけよねえ・・・」
「でも市河さんは昔から全然変わらないね」
 頬に手をあててため息を付いた晴美に、アキラは年上キラーの異名を誇る微笑みで喜ばせる。
「てゆーか市河さん、何歳?」
「コラ進藤!ここでその話題は禁句だ!」
「そうよ!・・・って、その気遣いも微妙に辛いわ、北島さん・・・」

 12月14日。
 今日は塔矢アキラ23歳の誕生日だ。
 朝一番で中国にいる母親からの電話で、今日自分が誕生日だったことに気付いたアキラである。
「なあ塔矢、来週の月曜って予定ある?」
 そうヒカルから聞かれた時は気付かなかったが、もしかして誕生日だと知っていて予定をおさえてきたのだろうか。でも誘われたのは二人とも予定のない日にはほとんど行っているいつもの碁会所。特別なことではないし、考えすぎか。
「進藤は若先生にプレゼント用意してないのか?」
「オレの誕生日に何もくれないヤツになんで買わなきゃいけねェんだよ」
 ・・・たしかに。
 ヒカルの言葉に内心でアキラは頷く。
 ヒカルの誕生日は9月20日。そう、頭にはちゃんとインプットされている。
 だが、一度だってプレゼントなどあげたことはないし、もらったこともない。
 なんとなくタイミングを掴みそこねたというのが本音だ。
 出会ってもう、11年にもなる。
 気付けば人生の半分近くの時間を、一番長い時間一緒に過ごしている相手かもしれない。
 それでももちろん親友というわけでもなく、友達とすらいえないかもしれない。
 永遠のライバル。
 一番しっくりくる言葉といえばこれだろうか。
 けれど、世間一般でライバル関係と言われる人たちよりはずっと一緒にいる時間は長いように思う。
 ライバル同士でそんなに打って、敵に手の内を探らせるようなものではないか、と言われることもあるが、手の内を探ってわかるような相手だったら、ここまでこの関係が続くこともなかっただろう。
 進藤ヒカルは自分にとって、特別な相手だ。どう特別なのか、まとめる言葉もないほどに。
 ともかく、そんな間柄だったから、突然「誕生日のプレゼント」なんてものをあらためて贈るのも躊躇われていたのだ。
 でも、実はヒカルの誕生日を認識してからは、さりげなく毎年一緒に過ごしているのも事実だ。
 いつもと同じような感じで、さりげなく誘う。
 そう、先週のヒカルと同じだ。
 日にちでなく曜日で誘うのだ。
 誕生日だからじゃない、たまたま、なんの予定もないから、だから誘っているのだ、というように。
 北島と言い争いを続けているヒカルを見ながらアキラは思う。
「なあ塔矢、来週の月曜って予定ある?」
 そう声をかけてきた時のヒカルは、そんな風に考えていたのだろうか、と。


「う〜〜〜さみィ!今日は冷えるな〜〜」
「そうだね」
「さっそく市河さんからのマフラーが役に立ってるじゃん!
 良い色だな、それ。さすが市河さん、センスいい」
「そうだね」
 晴美からのプレゼントを首に巻いたアキラは、その肌触りの良い感触に顔を埋める。
「市河さんって、ホント塔矢のこと好きだよなァ。
 あの年まで・・・っていくつなのか知らないけど、結婚しないのって、
 案外けっこう塔矢に対して本気だからだったりして」
「まさか。・・・ボクは芦原さんが本命なんじゃないかと思ってるんだけど」
「え?!そうなの!?」
「なんとなく・・・少なくとも芦原さんは市河さんが好きだろうな」
「あ〜〜・・・それはわかるかも。芦原さんかぁ、良い人だもんな、うん・・・いいかも。
 塔矢より将来性は劣るけど」
「そんなことはない。幸せな家庭を築くという未来を夢見るなら、
 ボクよりはるかに芦原さんの方が上だ」
 アキラの言葉にヒカルの歩みが遅くなる。
「・・・幸せな家庭・・・か」
「進藤?」
 完全に足が止まったヒカルに、アキラは振り向く。
「市河さん、結婚したら碁会所辞めちゃうかな?」
「え?・・・どうかな?続けそうな気がするけど。少なくとも子供が出来るまでは」
 酷く落ち込んだような口調に、まさか市河さんの事が好きなのか?という言葉が出かかった。
「そうだよな、いつまでもこのままってわけ、ないんだよな」
 寂しげに俯くヒカルの顔を覗き込む。
「・・・進藤?」
「オマエ、お見合いしたんだろ?」
「え?」
 不意に顔を上げたヒカルに驚いて、アキラは近付けていた顔を離す。
「結婚、するのか?」
「するわけないだろ」
「でも、いずれは、するよな」
「・・・それは・・・キミだって、そうだろ?」
「オレは・・・・・・」
 その後、何か言いたげだったヒカルだが、そのまま黙って俯くと、再び歩き出した。
「どうしたんだ、言いたいことがあるならハッキリ言え」
 よくわからない態度を取るヒカルにアキラは苛立つ。
 普段なら挑発的な言葉を投げかければすぐに言い返してくるヒカルが、黙ってそのまま歩き続ける。
「見合いは、断ったんだ。心に決めた人がいるからって」
 その言葉に、ヒカルの歩みが再び止まった。
「こころに・・・きめたひと?」
「そう。だから、見合いなんてするだけ時間の無駄ですってね、もうちょっと
 ソフトには断ったけど」
「じゃなくて!彼女、いるのか?!」
「彼女ってわけじゃないけど・・・まあ、大事な人、だね」
「じゃあ、じゃあなんで今日ここでオレなんかと歩いてんだよ!誕生日だろ!?
 その人のとこ行きゃーいいじゃん!バカかオマエ!」
 叫ぶヒカルを見ながら、泣きそうな顔だな、とアキラは思った。
「だから、ここにいるんだろ」
「・・・え?」
 息を飲んだヒカルの、喉が揺れた。
「キミこそ」
 一度息をついて、叫びそうになる自分を抑えつけて、冷静さを装い続けて言葉を続ける。
「今年も、去年も、一昨年もその前も、9月20日をボクと過ごしてるくせに」
「・・・それって・・・え?オマエ・・・オレの誕生日って気付いてて会ってたの?」
「そうだよ。キミの誕生日だと知っていて、空いているかと誘ったんだ。
 キミの誕生日を一緒に過ごしたかったから」
 一瞬にしてヒカルの顔が赤く染まった。
「な、何言ってんだよ!そんなこと、一言も言ってこなかったくせに!」
「キミだってそうだろ!ボクの誕生日を一緒に過ごしたかったんだろ!
 今日だって、一言だっておめでとうって言ってもらってないけど、
 ボクの誕生日だと、キミは知っていたんだろ!?
 知っててボクの誕生日の予定を抑えたくせに、なんでここにいるかだって?
 ふざけるな!」
 やっぱり、我慢しきれなくなって怒鳴ってしまうアキラである。
「・・・悪かったな!そーだよ!今日はオマエといたかったの!」
 そう言ってなぜか走り出したヒカルを慌てて追いかけて腕を引っ張って引き止める。
「なぜ逃げる!?」
「に、逃げてるわけじゃねェ!は、走りたくなっただけ・・・」
「・・・なんだそれは」
 ヒカルの腕を掴んだまま、アキラはため息をつく。
 そしておもむろに腕時計を見て「6時か・・・」と呟いた。
「よし。今からボクの誕生日会をしよう」
「・・・はあ!?」
「キミは今からケーキを買いに行って、7時までにボクの家に来い」
「な、なんだそれ」
「その間にボクは夕飯の出前でも頼んでおくから。あ、ケーキはホールじゃなくていいよ。
 今、両親いないし。あと、変に凝ったよくわからないケーキは嫌いだ。
 そうだな、やっぱり誕生日ケーキといったら苺のショートケーキかな。
 美味しい店を探して買って来てくれ」
「ちょ、ちょっと」
「じゃあ、7時に」
 そう言って、呆然とするヒカルを置いて、アキラは去ってしまった。



 ピンポーン。
 7時5分過ぎ、インターフォンが鳴った。
 玄関を開けると目をそらしたヒカルが、ケーキの箱を突き出す。
「・・・わりぃ、ちょっと遅れた。オマエが美味しい店探せって言うからっ」
「ありがとう。ちょうどさっき出前も届いたよ」
 箱を受け取って居間へと向かうアキラを、慌てて靴を脱いで追う。
「今、お茶入れるから座ってて」
 冷蔵庫にケーキを入れるアキラの言葉を聞きながら食卓に目を向けると、やはりというべきかそこには寿司が。
「オマエの寿司好きって緒方先生の影響?」
「別に寿司好きってわけじゃ・・・出前取るのに楽だろ」
 何がどう楽なのかよくわからなかったが、とりあえず黙って座るヒカルである。
 「はい」と置かれたお茶に、「サンキュ」と答え、どちらからともなく「いただきます」と食べ始めた。
 最近では当たり前のように無言でヒカルに玉子とウニをトレードされる。
 ヒカルと寿司を食べる限り、その寿司屋の玉子は味わえないな、と思うアキラである。
 いつもなら食べながら碁の話をするのだが、今日はなんとなく無言で、早いペースで食べ終わってしまった。
「・・・ケーキ、食おうか」
 ヒカルが冷蔵庫に目を向ける。
「コーヒー入れるよ。進藤、棚から皿とフォーク出して」
「うん」
 ケーキの用意を終えて待っていたヒカルの前に、すでにミルクを投入したヒカル好みのコーヒーが置かれた。
「あれ?キミはチョコレートケーキなんだ」
「だってオレ、生クリームあんま好きじゃないんだもん。
 いいだろ、別にホールじゃないんだから別々だって。
 それにさ、なんか、黒と白で碁みたいじゃねェ?」
 確かに並べられた2つのケーキの色合いはそれ。
「そうだな・・・」
「よし、では」
 そう言ってヒカルはおもむろに手拍子をしながら歌いだした。
「はっぴばーすでーとぅ〜ゆ〜はっぴばーすでーとぅ〜ゆ〜
 はっぴば〜すで〜でぃ〜あと〜や〜〜〜〜は〜ぴば〜すで〜とぅ〜ゆ〜〜〜♪」
 半ばやけくそな調子で歌い終えたヒカルは、「よし!食おう!」とフォークを手に取った。
「・・・ありがとう、嬉しいよ、進藤」
 その優しい声音に、ヒカルは口に運びかけてケーキを皿に戻す。
「・・・ホントに・・・オレで良かったんだな?」
「え?」
「だから・・・今日一緒に過ごす相手」
「あたりまえだろう」
「っあ、あたりまえじゃねェよ!毎年毎年思ってたさ、後何年かなって!
 いつの間にかもう23だ!
 15で碁の世界に入って、ずっとそれしかしてこなかった。
 20で大人の仲間入りねって言われたって、碁を打って生きる生活は
 何一つ変わらねェし、何にも変わんない、ずっとこのままオマエと
 碁を打っていけるって思ってたのに、それなのにオマエが見合いしたって
 噂とか聞くし、周りだって彼女が出来たとか結婚するとかそんな話聞くように
 なって・・・そしたら、変わっちゃうじゃん!今まで通りじゃなくなるよ、
 あたりまえなんかじゃなくなるんだよ!」
 言い終えて、大きく息をついて、ケーキを口に突っ込む。
「あーもうっ美味いな、これ」
 そう呟いて、黙々とケーキを食べだした。
「・・うん、こっちもすごく美味しい」
 アキラもリクエストした苺のショートケーキを食べて言った。
 そうして、互いが食べ終えた後、アキラは口を開いた。
「・・・それでもやっぱり、あたりまえのことだと思ったんだ」
 その言葉に、ヒカルは顔を上げる。
「キミと一緒にいること」
「・・・・・・」
「キミと出会って、もう10年を過ぎた。この先の10年も、20年も、ずっと一緒にいて、
 碁を打っていきたいと思ってる。その思いは、ボクの中で他の何よりも優先されているよ。
 周りがどう変わろうと関係ない。ボクは変わらないのだから。
 キミは・・・変わってしまうのか?」
「オレは・・・っオレだって、ずっと・・・オマエと一緒がいいって、思ってるさ!
 変わらないって、このままだって、思ってた。思ってたけど、でも」
 そこまで言って、ヒカルは切なげに眉を寄せた。
 次の言葉を言いかけて、吸い込んだはずの息を、音にせず吐き出して、俯いた。
「・・・進藤?」
「・・・オレは・・・・・・オレは変わっちゃったよ。
 昔は一緒に碁を打てるだけで嬉しかった。それだけで満たされてた。
 でも、今は違うんだ。オマエの見合いの話聞いて・・・なんか胸がザワザワして、
 オマエのことカッコイイっていう女の子たちの話聞いてイラッとするし、
 なんか・・・なんだかもうずっと胸が苦しくて、オレ・・・なんで、いつの間に、
 こんな風になっちゃったんだろ、なんで今まで通りじゃいられないんだろ、オレ・・・なんで」
 不意にアキラの指が頬に触れてきて、ヒカルは言葉を止める。
「前言を撤回する」
「え?」
「変わらなくなんかなかった。昔よりもっと、ずっと、キミが好きだ」
 心臓が、止まる。
 ヒカルは、唇に与えられた感触に、そう思った。
 思わず手を置いた胸の鼓動は、止まるどころかどんどん早く、強くなっていく。
「っっはっ、ふぁっ!」
 ただでさえ早くなった心臓に加え、無意識に息を止めていたせいで危うく生死の境目に立ちそうなほど息苦しくなったヒカルはアキラを突き飛ばして離れる。
「は、はぁ、あ、、、な、何してんだよ!!!」
 たぶん、首まで赤くなってる。
 ヒカルは急速に熱を持った自分の頬に手を当てて思った。
「・・・嫌だったか?」
「んなわけねェだろ!」
 間髪いれずにかえってきたヒカルの言葉に、アキラは思わず吹き出すように笑う。
「わ、笑うなよ!なんでさっきからオマエそんなに余裕なんだよっ!」
「だって、キミもボクが好きだったんだなってわかったから」
「な・・・っ」
「嬉しい。ありがとう、最高の誕生日だ」
 そう言って微笑んだ塔矢に、ヒカルは肩で息をして、苦笑する。
「・・・あ〜〜・・・うん、誕生日だもんな、おめでと、塔矢」
「初めてだな、誕生日を祝ってもらえたのは」
「そうだなぁ・・・毎年一緒にいたのにな」
「うん・・・でも、来年も、再来年も一緒だろうし」
「・・・ああ」
 未来なんて不確かなものだと知っていた。でもアキラの言葉を信じたくて、ヒカルはその言葉を噛み締めるように、目を閉じて頷いた。
「あーあ、今年のオレの誕生日は終わっちゃってるもんなァ。
 来年はオマエがケーキ用意しろよ!」
「わかった。・・・そうだ、遅れたけど・・・今年のプレゼントをあげるよ」
「・・・え?わ・・・ちょっと待っ・・・」
 引き寄せられてされたそれは、さっきより確かで、深いものだったけれど、今度はヒカルも少しだけ落ち着いて受け入れることが出来た。
「・・・チョコレートの味がする」
「っバカッ!言うなよっんな恥ずかしいことっ」
「恥ずかしいかな?」
「かな?じゃねェよ、ったく」
 そう言ってすっかり冷めているコーヒーを飲むと、
「あ、ごめん、キミ、ショートケーキ嫌いなんだっけ?」
 と言われ、思わず吹き出す。
「口直ししてるわけじゃねェよ!それに別に嫌いってわけじゃない、
 とくに買って食べたいほど好きでもないってだけ!
 それに・・・このケーキ、けっこう有名なところのなんだからな!
 ショートケーキだって美味かっ・・・〜〜あああっ」
 自分でも同じような言葉を発しているのに気付いてヒカルは呻く。
「・・・キミって意外と恥ずかしがり屋だったんだね」
「オマエがデリカシーなさすぎなんだよっ!」
「そうかなァ・・・」
 昔はヒカルに怒鳴られると反射的に怒鳴り返してしまっていたが、いいかげんヒカルよりは譲歩を覚えていたので、それ以上は反論しなかった。が、
「あ、ちなみに最初のは「もらった」、2度目は「あげた」だから」
 という言葉にヒカルがさらに沸騰して騒ぐのを見ながら、こういう風にいじめるのは楽しいかもしれない、と思ってしまうアキラである。
「・・・あ〜〜〜ったく、この塔矢の本性、市河さんたちに見せてやりてェ!」
「いいの?ホントに?見せても?」
「・・・・・んとに怖ェよ、オマエの本性・・・・・・」
「そうだよ、昔からキミはよく知ってただろう?」
 アキラの含んだ笑顔にあきれつつも、ヒカルは半ばあきらめ顔で笑って宣言した。
「ああそーだよ、よーく知ってんだよ、オマエのことは、オレが一番!」







・・・すみません、ホントに山なしオチなし意味なしでっ 鬼畜アキラ君(笑)にオトメなヒカル(コラ)なアキヒカ推奨! クリスマスも過ぎちゃったけど、アキラ君、誕生日おめでとう!
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