(12.1.5) 超今さらですが・・・アキラ君の誕生日話です。 ヒカルには彼女がいる(いた)という設定が 嫌な人はご注意下さい。 ヒカアキと見せかけてアキヒカですよ、ええ、ここは アキヒカサイトですから! 「心交差」 「進藤、オマエまた彼女に振られたんだって?」 遠慮の欠片もなくズバリと和谷に問われて、ヒカルは飲んでいたコーラのストローを噛む。 「・・・うっせーな、どーでもいーだろ、んなこと」 「クリスマス前に別れるなんてバカな彼女ねェ〜。 せいぜい高いモンふんだくってから別れればいいのに。コイツ、金持ちなんだから」 「奈瀬、その言い様はいくらなんでも・・・」 伊角にたしなめられても奈瀬に反省の色はない。楽しげな様子でヒカルに問う。 「で?今度の理由もアレなわけ?」 「・・・アレってどれだよ」 ズズーッと音を立ててコーラを飲み切るヒカルに、和谷、伊角、奈瀬は呆れた様子で顔を見合わせる。 「・・・アンタ、そもそも真剣に女の子と付き合う気あるの? そりゃ、別れの原因が『私と囲碁とどっちが大事なの!?』みたいな理由だったら、 まァ、女の子もちょっと悪いかなって思うわけよ。 進藤は今、2冠で乗りに乗ってる囲碁棋士なわけじゃない? 多少はそんな名声も目当てで付き合ってる子もいるんだろうしさ。 それで仕事の理解もしてやれないなんて、ダメだとは思うわけ。 でもさぁ・・・」 「お待たせ。すまない、打ち合わせが長引いて」 「おっせーよ!腹減ってハンバーガー注文しちゃうとこだったじゃん! さてっと、じゃ、オレ行くわ。また来週な」 ヒカルはコーラだけが乗ったトレイを持って、迎えに来た相手と「いそいそと」という表現がぴったりな様子で去って行った。 残された三人は、再び顔を見合わせる。 「・・・『私と塔矢アキラとどっちが大事なの』なんて理由で振られ続けてて 大丈夫かしら、進藤・・・」 「言うな、奈瀬」 「まぁ、一見とっかえひっかえみたいな感じはするけど、別に女の子もただ遊ばれてる みたいな感じでもないしさ、なんていうか・・・むしろ、進藤が女の子と 付き合うのを止めた時の方が、いろいろ問題な気がするよ・・・」 伊角がどこか遠い目をする。 「そう?もうここまできたらいっそあの二人が付き合っちゃえばいいと思うけど」 「言うな、奈瀬」 和谷が再びそう言って、ため息をついた。 「キミ、また彼女に振られたんだって?」 ヒカルに付き合ってラーメン屋に来ることにもすっかり慣れたアキラは、いつも持ち歩くようになったゴムで髪を縛る。 「・・・つーかさ、どーして皆知ってるわけ?」 「そりゃあ、今回の相手はここ数年の新人の中でもNO.1と言われる美人女流棋士 だったからね。皆、進藤が振られて喜んでるから」 「・・・奈瀬といい、振られたオレに少しぐらいは優しく出来ねェのかよ・・・」 「何?少しは落ち込んでるの?」 「ひっでェ〜当たり前だろ〜」 「今回も三ヶ月ぐらいだっけ?すぐ別れるのに、どうしてすぐ付き合うのさ」 「・・・だって、オレのこと好きだって言うから・・・」 「告白されたら誰とでも付き合うのかキミは」 「でもオレ別に二股とかしてねェし・・・皆に言われるほど変な付き合い方してねェし」 「女優と週刊誌沙汰になるようなことしておいてよく言う」 「・・・珍しいな。オマエがオレのそういうネタ、話題にするなんて。しかも古いネタ」 普段、アキラはヒカルが誰と付き合おうと別れようと何も言ってこない。 ヒカルもアキラのそういった話を聞くこともない。 出会って十年以上経つが、いまだに互いのプライベートはほとんど知らない。といっても仕事が互いにない日はほとんど一緒に打っているのだが。 ヒカルは二十歳の頃、初タイトルを取り、その若さとルックスが話題になり、テレビや雑誌でアキラと比較されながらももてはやされた。そんな時に対談したインテリで囲碁にも興味がある人気女優に気に入られ、付き合うことになった。 そして、二人でホテルから出てきたところを週刊誌にスクープされてしまったのである。 相手の知名度の高さもあって、当時はずいぶんとワイドショーを騒がせた。結局はそれからしばらくして別れてしまったが。 「・・・そうだな、別にどうでもいいな、そんなこと。ラーメンが伸びてしまう」 アキラは綺麗に箸を割り、ラーメンを食べ始める。 「はい」 「え?」 突然、ヒカルは自分のチャーシューをアキラのラーメンに入れる。 「誕生日プレゼント。ここのチャーシューが一番美味いってオマエ言ってたから」 そう言ってヒカルも自分のラーメンを食べ始める。 「・・・ああ、ありがとう」 「忘れてただろ、誕生日」 「うん。よく覚えてたな」 「一応毎年祝ってるだろ。オマエだってオレの覚えてたじゃん」 「そういえば今年ボクは寿司をご馳走したな」 「はいはい、オレだってチャーシューだけなんてケチくさいこと言わねェよ。 今日はオマエん家泊まるんだから、寿司でもケーキでもワインでも買って祝ってやる」 「寿司にワインって」 「だってオマエは日本酒よりワインじゃん」 「じゃあピザでも取ろう」 「・・・オマエの食の好みもずいぶん緩やかになったよなぁ・・・」 「誰かさんのせいでね」 翌日が二人揃って休みの日は、前日からアキラの家に泊まり込んで打つのが常になっている。アキラの両親は相変わらずほとんど日本には帰ってこない。 「おーい、出来たぞー」 ヒカルの声にアキラは読んでいた本を閉じる。 アキラの家に行く途中、ワインを買いに高級スーパーに行ったのだが、そこにあった「ワインに合う料理」の本をパラパラと、めくったヒカルが「これ作ろう」と言い出し、夕飯はヒカルが手料理を振舞うことになった。 18歳の頃から一人暮らしを始めたヒカルは、最初のうちは自炊といえば好きなラーメンばかり作って食べていたのだが、そのうちふと煮玉子を自分で作ってみようと思い立ち、それが上手く出来たことに味をしめ、次にチャーシューに挑戦し、これまた上手に出来上がり、次はスープ、しまいには麺・・・とハマッてしまい、気付けば料理の出来る男になっていたのである。 「キミ、結局あの本買わなかったのに、よく出来るな」 「えー、だいたいの材料と手順覚えたらあとは感覚だよ料理なんて。 レシピ通り作ってもオレの好みの味とは限んないし、最終的にはオレの好きなように 作るからいーの」 ヒカルはパスタやサラダやスープ、魚介のカルパッチョにチーズと並べていく。 「豪勢だな」 「だって誕生日祝いだもん。ご馳走だろご馳走」 言いながら勝手知ったる様子で食器棚とは別に置いてあるワイングラスも取ってくる。 「ワイン、料理にちょっと使っちゃったから赤からな」 ヒカルはさっそくグラスに料理に使うにはもったいないランクの赤ワインを注いでいく。 「白まで買って・・・二人しかいないのに」 「いいじゃん、たまにはとことん飲もう!」 二人とも飲めないことはないが、普段はあまり飲まない。 アキラの家に泊まる時でも酒を飲むのはまれである。 「じゃ、塔矢の誕生日にカンパーイ!おめでとー25歳!」 「ありがとう」 グラスを鳴らしてワインを飲む。 「美味しいな」 「だろ?実は緒方先生に教わったんだ〜オレが買っても生意気じゃない 値段の範囲で美味しいワインって」 「・・・緒方さんに教わったなら確実だけど・・・生意気ってなんだ」 苦笑しながらアキラは次にトマトソースをベースにした魚介のパスタを食べる。 「うん、美味しい」 アキラの言葉にヒカルは笑顔になる。 「だな〜、オレって天才〜。材料あまったからカルパッチョも作ってみましたー」 「本当に意外だな、キミのこういう才能」 「オマエが料理下手なことの方が意外だよ」 「下手ではなく、不得意なんだ」 「何が違うんだよ・・・」 実際のところ、アキラの家に行くと店屋物ばかりなのに飽きてきたせいもあって料理を覚えたヒカルである。勤勉家のアキラではあるが、なぜだか料理についてはまったく努力をしない。そもそも食に興味がないということもあるだろうし、料理以外の家事が出来ないヒカルとのバランスを取っているのかもしれない。 他愛もない話をしながら、食事は進んでいく。 ワインも1本目はあっという間に飲み終えて、白ワインに突入した。 「おー、けっこう今日は飲んでるな〜オマエ」 白の2杯目をアキラに注ぐヒカルの手元がそろそろあやしい。 「だって残してもしょうがないだろ。やっぱり2人で2本は多いよ」 どちらかと言えばアキラの方が強い。量的には自分の方が飲まなければならないとアキラは覚悟していた。 「まぁまぁ、美味いからいーじゃん」 ヒカルは手酌で自分にも注いでいく。 「あ、そーだ。ケーキもあったケーキケーキ」 食事を終えたヒカルは立ち上がり、微妙にフラフラした足取りで冷蔵庫へ向かう。 「大丈夫か」 「へーきへーき〜ケーキケーキ」 おかしなことを口にしながらもケーキの箱と皿とフォークをきちんと持ってこれるだけの状態ではあるようだ。 戻って来たヒカルはアキラの隣りに座る。 「あ、いけね、ローソク忘れた」 「いらないよそんなの。だいたいホールケーキじゃないし」 「え〜〜誕生日って言ったらローソク消しなのにぃ〜〜」 「いいから、ほら、皿に置いて」 アキラは果物がたっぷり乗ったタルト、ヒカルはなぜかシュークリームである。 「ケーキじゃないじゃないか」 店ではヒカルが選んだものを見ていなかったアキラは驚く。そういうアキラも誕生日ケーキらしからぬものを選んではいるのだが。 「だってここ、シュークリームが有名なんだもん。オレ、好きなんだもん」 「いただきまーす」、とヒカルは大きなシュークリームを「かぶり付く」という表現よろしく食べ始める。 アキラもタルトにフォークを入れた。昔はケーキというとショートケーキばかり選んでいた。他の物はあまり食べたことがなかったし、選ぶのに迷うほど興味がある食べ物でもなかった。けれど、ヒカルと過ごすようになってからは色々なものを知ったし、ケーキに限らず囲碁以外のものにも少しは興味がもてるようにもなってきた。ケーキを選んで買うという些細なことですら、アキラにとっては大きな変化だ。 「やっぱ美味い〜」 アキラがやっと一口食べたところでヒカルは食べ終えてしまった。 「クリーム付いてるぞ」 大口開けて食べたせいだろう。はみ出したクリームが口の脇に付いている。 「ん?」 ヒカルは舌を出して口の端を舐める。 「届かないよ、それじゃ」 そう言ってアキラは、自分の指でヒカルの口元に付いたクリームを拭い取る。 「まったく、子供かキミは」 指先に付いたクリームを拭こうと、ティッシュがある方へ向いたアキラの手首が不意に掴まれる。 「・・・っ」 引き寄せられた人差し指のクリームは、ヒカルに舐めとられた。 「・・・もったいない」 どこか焦点の定まらない目で呟いたヒカルは、アキラの人差し指の先を口に含む。 呆気にとられていたアキラは、舌先が指の腹をなぞる感覚で我に返り、手を引く。 「な、何するんだ」 言われてヒカルも我に返る。 「っ・・・わ、わりィ、酔ってるみたい」 「・・・彼女とでも間違えたか」 「ばっ・・・か違ェよ!!酔ってても間違えたりするもんか!」 「じゃあ、なおさら変な事するな。バカはキミの方だ」 「・・・ごめん」 ヒカルは顔を背けて俯いた。 なんとなく気まずくなった空気の中、アキラは自分のケーキを食べ終える。 「・・・片付けはボクがやるよ」 そう言って、テーブルの上の皿を重ねていく。 それらを持って立ち上がろうとしたアキラは、不意に手を強く引かれる。 とっさに離した食器が、テーブルの上でガシャンと音を立てた。 割れなかった食器に安堵する間もなく、アキラの視界はぐるりと回る。 天井が見えた。そして背中への衝撃に目を閉じて、次に目を開けて見えたのはヒカルの顔。 両手首を畳に押し付けられて、組み伏せられている。 「・・・塔矢、酔ってる?」 息が顔にかかるほど近くで、ヒカルが囁いた。 「・・・酔ってるのはキミだろう」 「・・・うん。オレは酔ってる。オマエも酔ってるかって聞いてんの」 「・・・素面とは言い難い程度にはね」 「チェ・・・、もっと飲ませれば良かった」 「ボクを酔わせてどうする」 「・・・ぷっ・・・下手なドラマのセリフみてェ」 「さっきからなんなんだ。女に振られて自棄になって、ボクで憂さを晴らそうと してるなら、本気で見損なうぞ」 「・・・なぁ、オレがなんで振られたか知ってる?」 囁くヒカルの声で震える空気が唇に触れるのを、まるで直接唇が触れているかのように感じて、アキラは顔を背ける。 「・・・キミの彼女、数日前にボクのところに来たよ」 「え?」 「『ヒカルを取らないで』って、言われた」 「アイツ・・・そんなことしたの?」 「彼女だけじゃない。過去の彼女も、ボクと面識のある子は何人か同じように来たよ」 「・・・なんでオレに言わないんだよ」 「彼女たちにだってプライドがあるだろ。付き合っているうちはそんなこと言えないし、 別れたら、そんなことどうでもいい」 「・・・で、オマエ、なんて答えたの?」 「・・・貴方も碁打ちなら、進藤にとってボクより魅力的な碁を打てばいいって」 「・・・そんな無理言うなよ」 「キミがボクより彼女を優先しないからいけないんだろ!?」 「・・・だって、オマエが一番大事なんだもん」 アキラの手首を抑えつけていたヒカルの手がアキラの拳を押し開くようにして重ねられる。 「・・・変な言い方をするな。キミが一番大事なのは、ボクの碁だろ?」 アキラは、手が汗ばんでいくのを感じていた。 それは、自分の緊張のせいなのか、強く握りしめてくるヒカルのものなのか。 「碁だけじゃ、ねェよ」 「・・・もういい。酔ってるんだろ?早くどいてくれ」 「・・・酔ってるよ。だから、ずっと我慢して我慢して、言えなかったこと、 言ってやる。塔矢、オレは・・・」 「それ以上言うな」 アキラは、ヒカルの拘束を解こうと動く。が、さほど体格差のない相手では、上にいる方が有利だ。あえなくヒカルに抑え込まれる。 「ずっと・・・ずっと、気付いてたんだろ?! オレが、オマエのこと、好きだって! わかっててオマエは、ずっと知らないふりしてた! そりゃそうだよな、男から想われて、受け入れられないのは当然だ。 オレが間違ってるのはよくわかってるよ! でも、もう無理、限界。隠してるふりするもの、それがバレてるって わかってて気づいてないふりするのも」 ヒカルは、顔を背けたままのアキラの頬に唇を当てる。 瞬間、アキラは頭を強く振り、ヒカルにぶつけてくる。 「いって!!」 思わずヒカルは起き上がって額を押さえる。 「何がずっと好きだった、だ!キミ、今まで何人と付き合った? ボクを好きだと思いながら、何人の女に好きだって言ったんだ! ボクに触れたその唇で、何人の女に触れたんだ!」 怒鳴られて。ヒカルは痛みをこらえて顔を上げる。 「・・・1人」 「・・・は?」 「オレも好きだって思ったのも、キスしたことあんのも、1人だけ。 それだって、オマエが好きだって自覚する前だよ。 逆に言うとさ、オマエじゃない人としたから、ホントに好きなのはオマエだって 気付いたっていうか・・・」 「・・・だってキミ、今までに彼女、少なくとも10人以上いるだろ!?」 正確には13人だとアキラは把握していたが。 「でもオレから告ったヤツいないし・・・深く付き合う前に別れちゃうっていうか、 深く付き合うこと求められたら別れてたっていうか・・・」 「じゃあ・・・そもそもキミ、なんで女性と付き合ってるんだ」 「・・・オマエが好きだから、かな」 「なんだそれは!」 「オマエが初めてタイトル取った頃さ、テレビとか雑誌とか すっごくたくさん出て、女性ファンもたくさん出来て、アイドルみたいに なった時あったろ?その中でもちょっと厄介なのいたじゃん、 塔矢アキラは私たちのもの!みたいなちょっと怖い集団。 その子たちに言われたの。 『アンタが四六時中そばにいるから、アキ様(ちなみに今でもファンには そんな呼び名で呼ばれているアキラである)がホモだと思われるって。 変態、アキ様が穢れるから、アキ様に近寄らないでって。 そん時はふざけんなって思ったよ。なんでオレばっかホモ扱いって。 ホントしつこくてさ・・・。変な手紙とか送られてくるし、 どっから知ったのか携帯にイタ電とか・・・。 留守電に「ホモ!」とか入ってんの、あれには超メゲた。 でも、彼女たちの言いなりになるのも腹立つからオマエとは一緒に居続けたけど。 その後、オレもタイトル取って・・・そんで、優利子さんと出会ったんだよね」 加藤優利子。和風美人で頭が良く、演技も上手い、今も人気の実力派女優だ。 ちょうど囲碁を覚え始めたばかりだという彼女と、雑誌で対談することになったヒカルは、その後も仕事として彼女に指導碁をすることになった。 初めのうちは仕事という感覚だったが、何度か会ううちに、彼女の方がヒカルのことを本気で好きになってしまったと言い出した。 ヒカルも、彼女の芸能人なのに飾らないところや、真剣に囲碁を覚えようとして上達していく様を見るうちに、素敵な人だなと思っていた。 こんなに綺麗で、誰もが羨むような相手から好きだと言われて、断るなんて男じゃない。 そうして二人は、付き合うようになった。 「オマエにこんなこと話すのヤダけど・・・誤解されたままよりマシだと 思うから正直に言う。優利子さんとはキスもしたし、オマエが知ってるように、 その・・・ホテルにも行った。でも・・・その・・・なんつーか・・・ してないんだよね」 ヒカルは恥ずかし気に俯く。 優利子の方が4つ年上だった。たぶん、初めてではなかっただろう。 ヒカルの方が緊張していたし、初めてでわからないことだらけだった。 外国の映画みたいだ、って思うようなキスもした。 染み一つない綺麗で透き通るような白い肌に、さすが女優だなって息を飲んだ。 肌の温もり、柔らかな胸、甘い吐息。 「心はさ、まぁ、ヤル気満々だったんだけど、その、体が反応しなくってさ。 それで余計焦って、若干パニックにもなって、まぁ、情けないったらさぁ。 でも優利子さん、優しかった。慌てなくていいって、また今度にしましょって。 実は、週刊誌に撮られたのって二度目の時なんだ。 オレ・・・二度目の時もダメで。そん時は、自分でもちょっと冷静になってたから、 ちゃんとわかったんだ。なんでダメなのかって。 オレ・・・優利子さんとしながら、オマエのこと考えてた。 普段澄ましてる塔矢も、こんな風に情熱的なキスするのかな、とか。 塔矢も肌、綺麗そうだよな、とか。 塔矢の髪は、もっとスルスルしてそうだよな、とか。 優利子さんにもオマエにも、失礼だよな。 優利子さん、頭の良い人だからさ、なんとなくわかっちゃったんだろうな。 事務所に怒られたし、そのまま・・・別れることになっちゃった。 でもワイドショーでオレが騒がれたらさ、オマエのファンが喜んだんだよ。 進藤に彼女がいるなら、アキ様とデキてるわけじゃないって。 だから、オレ、思ったんだよね。オレに彼女がいれば、オレが塔矢の そばにいても、塔矢に変な噂立たないって。 だから、オレのこと好きだっていう女の子と、付き合ってたわけ」 長々と話して疲れたのか、ヒカルはそこで大きなため息をつく。 「・・・ボクのために好きでもない子と付き合ってたっていうのか?」 「誰のためかっていったら、オレのためかな。 せめて彼女でもいないと、オマエへの気持ちに歯止めがかからないってゆーか・・・。 あ!そうだ、オレ、オマエに告白してオマエとギクシャクするのが嫌で 今までずっと言うの我慢してたのに! うわぁ〜酒って超怖ェ〜〜。えっと・・・わ、忘れてくれ。 もう二度とこんな変なことしないから。今まで通り、一緒にいてくれ。頼む」 拝むように手を合わせるヒカルに。 「・・・ふざけるな!!」 とお決まりの怒声を浴びせる。 「ボクに言えば良かったじゃないか!ボクのファンが心無いことを言うって!」 「言えるか!オマエのファンが怖いなんてそんな情けないこと!」 「今言ってるじゃないか!そんなつまらないプライドのために、 キミはどれだけの女性を傷付けた!?」 「・・・別に、そんな酷い扱いしてないもん。 付き合う前にちゃんとオレ言ったもん。オレ、オマエより碁を優先すると 思うけどいいか?って。いいって言ったくせに、やっぱりダメなんだ。 だから別れるんだ。しょうがないじゃん」 「・・・違う、キミが一番優先してたのが、碁じゃなくて、ボクだからだろ。 だから、彼女たちは頭にくるんだ。自分が男に負けてるから。 だから、女の武器を使おうとするけど、キミにはそれも通じない。 だから、別れるんだろ」 「・・・オレだって、オマエより彼女のこと好きになれたらって 思うことだってあるよ!オマエより良い子が現れるんじゃないかって。 だからいろんな子と付き合ってみたけど、ダメなんだよ。 オマエがいい、オマエじゃなきゃダメなんだ!」 「・・・じゃあ、なんでもっと早くそれをボクに言わない?」 「だ・・・だって、脈、ないじゃん」 「なぜそう思う」 「なぜってオレ男だし!ってゆーか、オマエだって、オレの気持ちに ぜってェ気付いてたはずなのに、無視してたじゃん! そんな態度取られてて、告白なんか出来るか!」 「したじゃないか」 「だ、だからそれは、その、酔ってたし。・・・じゃなくて・・・ホント、オレ、 もういろいろ限界だったし。オマエももう25じゃん。 見合いとか、話たくさんあるんだろ?結婚なんかされたら・・・オレ、耐えられない」 ヒカルはそう言って俯き、膝の上で拳を強く握る。そこでようやく、自分がアキラの足の上に跨ったままだったことに気付いた。 「・・・塔矢」 ヒカルは顔を上げて、アキラに手を伸ばす。 肩に手を置いて、そのまま押し倒した。 「ずっと、オマエが好きだった」 自分を真っ直ぐに見つめ返すアキラに、そう伝えた。 震える手でアキラの頬に触れ、前髪の隙間から覗く額に唇を落とす。 「・・・塔矢」 綺麗に筋の通った鼻に、頬に、口付ける。 「・・・なんで抵抗しないんだ?」 「・・・嫌じゃないから」 「・・・と・・・や」 「でも、すごく腹立たしい。そうだ、ボクはずっと気付いていた。 キミが誰よりもボクを特別に思っていること。 それでいて、他の誰かと付き合うことが嫌で嫌でたまらなかった。 キミの気持ちがまるで理解出来なかったし、彼女がいる間は意地でもキミの 本当の気持ちに応えたくなかった。 ボクだってわかっている。ボクにはキミに女性と付き合うななんて 言う権利はない。誰とでも付き合って、さっさっと誰かと結婚でもして、 ボクとは適度に距離を置いて、ただライバルとしていられれば、 それが一番良いって、わかってる。 それなのにキミは、いつまでたっても彼女と本気で付き合おうとしないし、 彼女がいながらボクを最優先にしてくる。 ボクはそれがすごく迷惑だった。でも・・・それ以上に、嬉しかった。 キミが彼女と別れればザマみろと思ったし、 キミの彼女が、ボクのせいで進藤と上手くいかないと文句を言いにくれば 内心優越感に浸ってた。 進藤。ボクは、キミに彼女が出来るたび、早く別れればいいのにって思ってた。 キミの彼女たちより、ボクがキミの一番でありたいと、ずっと思ってた」 「と・・・や・・・」 「ボクのことが本気で好きなら、誰に何を言われても、ボクだけを想い続けろ。 もう二度と、他の女と付き合うな。 それが守れるなら、キミの気持ちに応えてやる」 「・・・ホントに?」 「冗談だって言ってほしいか」 「・・・オマエって、ドSだよなぁ・・・」 「ボクのそういうところ、キミが一番良く知ってるだろ?」 アキラにニヤリと笑われて、ヒカルは苦笑する。 「オマエがそういうところ見せるの、オレだけだもんな」 「そうだよ。キミと違ってボクはずっとキミだけが特別な相手だったんだから」 「・・・意地悪言うなよ・・・」 ヒカルはガックリとうなだれる。 「キミが彼女を作るたび、ボクがどれだけ嫌な思いをしてきたと思ってるんだ。 このくらいの意地悪じゃ全然足りないね」 「だからそれはオマエが・・・・・・あ〜〜もう、いいや。 意地悪されても、オマエが、オレのものになってくれるなら」 ヒカルは、アキラの頬にそっと手を添える。 「なァ・・・キスしていい?」 「・・・女優仕込みの?」 「・・・やっぱ、あんまりいじめないで」 「ごめん」 そう微笑んだアキラは、ヒカルの頭に腕を回して引き寄せ、唇を押し当てた。 離れていくアキラの唇を追いかけるようにしてヒカルも口付ける。 あとはもう、夢中だった。 「そろそろ起きろ。午後から仕事だろ?」 「・・・休む・・・」 「バカ言ってるな。ほら」 強引に布団をはぎ取られる。 「うわぁ!何すんだ!」 ヒカルは布団を引っ張り戻す。見ると、アキラはきちんと身支度を整えて、いつも通りの塔矢アキラになっていた。 「暖房付いてるし、寒くないだろ」 「そういう問題じゃねェ!」 そう言って裸の体を布団で隠すヒカルに、アキラはため息をつく。 「今さら隠してどうする。もう、さんざん見たよ」 「う、う、うっせェよ!オ、オマエ、なんでそんな淡々としてんだよ!! 余韻の欠片もないし!オレ、オレ、『初めての朝』楽しみにしてたのに! オマエの寝顔とか見て・・・「オハヨ」とか言いたかったのに!」 「こんな時間まで寝ててボクの寝顔が見れるわけないだろう」 と言っても10時だ。ヒカルにとってはそう遅い時間でもない。 「ケチ!」 布団を抱きかかえて拗ねるヒカルに、 「キミの寝顔見てたら出会った頃のキミを思い出したよ」 と、アキラが微笑む。 「・・・オマエは見てんのかよ。で、なんで? ・・・あ、顔がガキっぽいって言いたいのか」 「うん」 「・・・そーだよ、オレ、まだガキなのに・・・すげェこといっぱい・・・させやがって」 当初、当然のように自分がリードして、「する」方だとばかり思っていたヒカルは、アキラの想像以上に綺麗な肌や、ずっと触っていたくなる髪の感触にうっとりしている間に、気付けば「される」側のポジションになっていた。 「ちょっと待て!なんで!?」と抗議したが、「キミが経験豊富なら任せても良かったんだけどね。初めてなら無理しそうだから絶対嫌だ」などと言われ、互いに嫌だ無理だと争っていたが、最終的に「今日はボクの誕生日だ。キミがボクへのプレゼントになるべきだ」という言葉に押し切られ・・・ヒカル的には不本意ながらも、アキラの要望を受け入れるはめになったのである。 「人聞きの悪い。だいたい25で何がガキだ。 それに「させた」んじゃない、キミが「した」んだろ」 「・・・だって・・・超気持ち良かったんだもん」 抱き締めている布団に顔を埋める。優利子相手にはまったく役に立たなかった体は、アキラを前にしたらそんなことが嘘のようにアキラを求め続けた。おかげで、起き上がるのが本当に、辛い。 「するたびに仕事をさぼるとか言い出すなら、もう二度としないぞ」 「え!?嘘、ヤダヤダ、起きる、起きます!」 「ご飯作ったから。まあ、キミほど上手くはないけどね。顔洗っておいで」 「はーい」 「進藤、とうとう塔矢とデキちゃった?」 奈瀬に聞かれてヒカルはコーラを吹いた。 「で、ででででデキてねェ!」 「だって、ここしばらく新しい彼女いないじゃない」 「オ、オレは、真面目に碁に集中することにしたの!」 「へ〜〜〜ふ〜〜〜〜ん」 そんな二人のやり取りに、もはや口出しすらしない和谷と伊角である。 「進藤」 不意に聴こえた呼び声に、ヒカルはパッと笑顔になる。 「お、今日は早いな〜。さて、じゃ、オレ行くわ。またな〜」 相変わらず、いそいそと、迎えに来た相手とヒカルは店を出て行った。 「・・・認めちゃえばいいのにねえ?これだけ長いことバレバレの状態で ラブラブだったら、今さら誰もツッこまないと思わない?」 「・・・言うな、奈瀬」 和谷が、げんなりとした顔で、ため息をついた。 |
あとがき。 というわけで、当サイトでは珍しい、 ヒカルに元カノがいるという設定で お送りしましたが、いかがだったでしょうか。 11月から書いてはいたんですよ。 12月の頭にはほぼ出来上がってたんですよ。 しかしそこから「甘く見てたよ12月!!」 という、毎日超超残業&休日出勤の日々が・・・。 で、たまの休みには新居昭乃さんやKinKiの ライブに行ってしまうという(苦笑) 丸1日ゆっくり休んだ日、1回ぐらいしか なかった・・・。しかも寝てた(*_*) 年末年始は31日〜3日と出勤だったので、 今日は溜まっていた正月テレビを観ました。 新春お好み囲碁対局、面白い企画だったな〜。 プロとアマが5手ずつ打って交替するという 連碁での対局だったのですが、ちょっとネタとして 使いたくなったかも。 梅沢由香里先生、吉原姓に変更されたんですね〜。 お子様生まれても相変わらずお綺麗でした〜。 正月も過ぎてしまいましたが、 アキラ君、誕生日おめでとう!
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