(04.1.9) 『午前0時』
12時は突然訪れた。 気付くと鐘は鳴り終ってしまった後で。 魔法のような時間は終わりを告げていた。 『気をつけなさい。真夜中の12時になると魔法は解けてしまうから』 魔法使いはそう言った。 シンデレラは、魔法が解けることを知っていた。 『私はもうじき消えてしまうんです』 ・・・そう、魔法が解けることを知っていたんだ。 12時の鐘が鳴り始めて、シンデレラは王子の前から姿を消す。 ずるい、ずるいよ。 楽しい時間、それこそ魔法のような奇跡の時間。 だって、オレは終わるなんて思ってなかったんだ。 シンデレラは知っていた。オマエも、知っていた。 魔法が解けること。 オマエだけ、わかってた。 そりゃ、オマエの言葉を真に受けなかったオレも悪いよ。でも、でもさ。 だって、オマエが消えるなんて考えたことなかったんだ。 シンデレラが王子から逃げたのはさ、みすぼらしい自分の姿を見られたくなかったからだろ?後に残される王子の気持ちなんか、全然考えてないよな。 本当に一緒にいたかったのなら、魔法が解けてもそこにいれば良かったんだ。 でも、オマエは? ねえ、どうしてもっとちゃんと言ってくれなかったんだ? 消えてしまうって。 なんでオレが真剣に聞くまで言ってくれなかったんだ? もしかしたら、消えない方法を考えることが出来たかもしれない。 もっと、一緒にいられたかもしれないのに。 12時の鐘が鳴り始めて、魔法が解けるまでの時間、オマエさ、すごく、すごく・・・辛かったんじゃないのか? ・・・でも、同時に思う。 もし、オマエがもうすぐ消えてしまうことがわかって、それでもなすすべがないとしたら・・・なあ、どっちの方が、オレは辛かったかな。 突然失ってしまうのと。 失うことを知ってしまうこと。 ・・・なあ、消える時、どんな気持ちだった? 夢を見たよ。オマエは・・・笑ってた。 口うるさいオマエがさ、オレにろくに文句も言わずに消えちゃうなんてさ。 そう、だから、きっとオマエは・・・オマエなりの答えを見つけちゃったんだろうなって、思うんだ。 でも。 神の一手。 オマエが、千年も見続けた夢。 まだ・・・叶えてないじゃないか。 だからオマエ・・・帰ってくるんだろ? オレ、待っててもいいだろ? ダメって言われたら・・・探しに行ってやる。 シンデレラだって探して探して、見つかったんだしさ。 オレにだって・・・オマエを探し出せるはずだから。 もしもまた会えることが出来たら、オマエはあの微笑みをオレに見せてくれるだろうか。 オレは、オマエに・・・笑顔で会いたいよ。 シンデレラはガラスの靴を残して消えた。 綺麗なドレスも、カボチャの馬車も、ネズミの従者も、12時を過ぎて消えてしまったけれど。 消えなかったものだって、あるから。 ガラスの靴を頼りにシンデレラを探し出した王子のように、オレも、探すから。 オマエを。 オマエの答えを。 そして、オレの答えを。 オレの名を呼ぶ声、ちょっとうるさいくらいの小言、オマエが打つ、新たなる一手。 いつの間にか鳴り終わっていた鐘の音と一緒にみんな消えてしまったけれど。 消えなかったものだって、あるんだ。 12時が過ぎて、魔法は解けてしまったけれど。 ガラスの靴の片方は、今でもオレの、中にある。 「完」
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